中国離れる富裕層、世界最多1万5200人 巨額の資産持ち出し その理由、人気の移住先は?

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中国の政策を嫌う富裕層が母国を抜け出し、海外移住するケースが増えている。東京の高級マンションにも殺到しているほか、移住に利のある世界各地へと向かう富裕層が後を絶たない。中国政府が国外への資金流出を止めようと躍起になる一方、移住先の国側でも文化的摩擦などの問題が懸念されている。
◆スーツケースの現金でタワマン購入
ニューヨーク・タイムズ紙は、東京の3億円以上のマンションの主要な購入者は中国人であり、彼らはしばしば現金で支払いを行っていると報じている。中国の富裕層は、現金を持ち込んでマンションを購入することが多い。たとえば、東京の不動産業者によると、中国人バイヤーはスーツケースに現金を詰めて持ち込み、マンションの購入に充てているという。
東京23区のなかでも特に中央区、文京区、千代田区などの都心部で外国人の増加率が顕著だ。これらの地域はタワーマンションや教育環境が整っているため、中国人富裕層に人気がある。
産経新聞によると中央区では、外国人に占める中国人の割合が5年前の約43%から約51%に増加している。特に晴海などの臨海部にあるタワーマンションが人気で、内見に来る顧客の多くが中国人経営者だという。教育環境が充実した文京区も中国人富裕層に人気がある。

東京・晴海の高層マンション|takuya kanzaki / Shutterstock.com
都内の外国人専門不動産会社が同紙に明かしたところでは、都心の41階に位置する2億1500万円の中古タワーマンションを内見に来た25組のうち23組が中国人経営者だったという。
◆日本だけではない…北米、欧州、シンガポールが人気
祖国を離れる中国の富裕層は多い。移民向けのコンサルティングなどを提供する国際組織のヘンリー&パートナーズは6月、今年の中国の富裕層の純流出は過去最多の1万5200人(2023年は1万3800人)に上るとする報告書を発表した。

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米ニューズウィーク誌によると、中国の富裕層が最も多く移住するのはアメリカで、続いてカナダ、欧州連合、シンガポール、日本、香港の順に人気があるという。
なお、ここでいう富裕層は、現金・株式・債券・投資信託など流動性の高い資産(自宅・車・宝石などは含まず)を100万ドル(約1億6000万円)以上所有する人々を指す。
◆毎月500億ドルが中国から持ち出されている
中国政府は富裕層と資金の流出に頭を抱える。資本規制を強化しており、特に大規模な海外投資や不動産購入に対して厳しい監視を行っている。また、個人が1年間に海外に持ち出せる外貨の上限を5万ドル(約800万円)に制限している。
だが、歯止めはかからない。英ガーディアン紙によると2023年の上半期だけで、中国からの資金流出は約195億ドル(約3兆円)に達している。この数字は中国の国際収支データに基づいているが、実際の資金流出額はさらに高い可能性がある。ニューヨーク・タイムズ紙は昨年、毎月約500億ドル(約8兆円)が中国から流出しているとの推計を伝えている。
資金の移動制限を回避するため、中国の富裕層はさまざまな方法を用いている。英フィナンシャル・タイムズ紙は、「地下銀行」の存在を報じている。公式の金融システムを通さずに資金を移動させる非公式な手段であり、こうした影の金融機関を通じた資金の移転は「ミラー・トランスファー」と呼ばれている。この手法では、中国国内の地下銀行に資金を預け、同額を海外の地下銀行から引き出す。

上海の宝飾店|humphery / Shutterstock.com
ほか、ニューヨーク・タイムズ紙によると、ゴールドバーを購入して持ち出す、香港の銀行口座を開設してそこから保険商品に投資する、海外の高級マンションを購入するなど、あらゆる手法で資金を移動させているという。
◆平等図る「共同富裕」の政策が裏目に
富裕層たちが相次いで住み慣れた母国を離れる背景に、習近平国家主席が進める共同富裕政策がある。
習氏は2021年から「共同富裕」を掲げている。富の再分配により社会の不平等を是正し、全体的な生活水準を向上させることを目指している。高所得者層や大企業から税金と寄付を集め、低所得者層や地方の発展を支援することが柱だ。
富裕層にとってこの政策は、税負担の増加だけではないリスクがある。ガーディアン紙は、共同富裕政策の一環として、富裕層や大企業に対する規制や監視が強化されていると指摘する。アリババの創業者である馬雲(ジャック・マー)氏は2020年に中国の規制当局を批判したが、その後アリババは厳しい規制の対象となり、彼自身も一時的に公の場から姿を消した。

馬雲氏(2019年5月)|Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com
こうした規制・監視の強化により、富裕層は自身の財産やビジネスが政府のターゲットになることを恐れている。このため、多くの富裕層が資産を海外に移動させ、居住地を移すことを選んでいるのが実情だ。
加えて、生活環境の改善も彼らのねらいの一つだ。ニューヨーク・タイムズ紙は、特に、子供の教育や安全な生活環境を求める親が多いと指摘する。
◆流出先の国に好機か? 見解分かれる
大移動を始めた中国富裕層に対し、見解は分かれる。アメリカの政策コラムニストであるキャサリン・ランペル氏は、ワシントン・ポスト紙に寄稿し、中国からの富裕層や高技能労働者の流入は、アメリカの経済や技術革新にとって大きなプラスとなるとの見解を示している。
アメリカの大学や研究機関、企業において重要な役割を果たすことが期待されるほか、富裕層の移住は、アメリカの不動産市場や消費市場に直接的な利益をもたらすとの主張だ。優秀な人材を引きつけるために移民政策を緩和する必要があると氏は唱える。

米ニューヨークの中華街(手前)|Pierpaolo De Gennaro / Shutterstock.com
一方、流出先の国は課題も生じる。ニューヨーク・タイムズ紙は、中国の富裕層が大量に不動産を購入することで、特に都市部の不動産価格が急騰する恐れがあると指摘する。国内の人々が住宅を入手できない可能性が生じる。
また、文化の摩擦や所得格差の拡大も懸念される。富の流出が止まらない中国側だけでなく、異文化が流入する移転先国においても課題が生じる恐れがありそうだ。
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